水痘(水ぼうそう)とは?
水痘(すいとう ・ varicella ・ Chicken pox)とは水痘帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus VZV)によって起こる急性のウイルス伝染性疾患です。一般に水疱瘡(みずぼうそう)としても知られています。小児期によく見られる急性熱性発疹症のひとつで、全身に散らばって分布する小水疱を主体とする発疹が生じる病気です。近年日本では成人の抗体保有率が低下し、成人でもしばしば見られます。
水痘は麻疹と並んで感染力が極めて強く、水痘に対する免疫がなければ感染後2週間程度の潜伏期間を経て発疹が出現します。日本では小児を中心に年間数十万人が水痘に感染していました。2014年10月からしばらく水痘ワクチンが定期接種となったために、今後水痘の発症者数は大きく減少していくものと思われます。
|水痘の歴史
19世紀末までは水痘と天然痘は明確に区別されていませんでした。次のような歴史的変遷を経て現在に至っております。
1875年Steiner
水痘患者の水疱内容を接種することによって水痘が発症することを確認
1888年von Bokay
水痘に感受性のある子供が帯状疱疹の患者との接触によって水痘が発症することを確認
1954年Thomas Weller
水痘および帯状疱疹患者いずれの水疱からも水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)を分離
1970年代 日本で水痘ワクチンが開発 現在水痘の予防に使用
水痘の原因
水痘は水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus VZV)の初感染(免疫のない人に初めて感染すること)によって発症します。VZVは水痘が完治しても三叉神経節や脊髄後根神経節に潜伏し一生住みつきます(潜伏感染)。主に加齢や疲労などの要因により抵抗力・免疫力が低下した際にVZVの再活性化が起こり、症例の20〜30%では帯状疱疹が発症します。
|水痘の感染経路
水痘・帯状疱疹ウイルスは非常に強い感染力を持っています。水痘を発病している方と同じ空間を共有(同じ部屋・乗り物など)した場合、どんな短い時間でも水痘に感染している可能性があります。病院などでは同一フロアにいるだけで軽度の接触とみなされます。水痘患者が排出したウイルスはチリやホコリや水の粒と室内を飛散し、一定以上の数を鼻咽頭・上気道から吸入すれば患者に接触しなくても感染します。
水痘・帯状疱疹ウイルスの感染経路
- 空気(飛沫核)感染
- 飛沫感染
- 水疱液による皮膚症状からの接触感染
- 帯状疱疹の人からの接触感染や飛沫感染
上記の感染経路によってウイルスは上気道・下気道から侵入し、ウイルス血症を経て、通常は2週間前後(10〜21日)の潜伏期間を経て発病すると言われています。
水痘患者が排出したウイルスはチリやホコリや水の粒と室内を飛散し、一定以上の数を鼻咽頭・上気道から吸入すれば患者に接触しなくても感染します。水痘の空気感染を防ぐことのできる物理的手段(N95等のろ過マスクの装着・空気清浄機の運転)として効果的なものは残念ながらありません。水痘の感染発病を防ぐことのできる唯一の予防手段はワクチンの接種のみです。
|水痘・帯状疱疹ウイルスの詳細
水痘帯状疱疹ウイルスは次のような特徴をもっています。
- ヘルペスウイルス科 α亜科 DNAウイルス
- ウイルスの大きさ 150-200nm(ナノメートル)
- 初感染の後、知覚神経節に潜伏感染(他のヘルペスウイルスと同様)
- 気道粘膜から侵入
- 鼻咽頭の侵入部位と所属リンパ節にて増殖
- 感染後4〜6日で一次ウイルス血症となる(ウイルスが血液に感染する)
- ウイルスが全身・他臓器(肝臓・脾臓)に散布
- 全身性に増殖した後二次ウイルス血症により皮膚に水疱を形成
- 発疹出現5日前頃〜発疹出現後1〜2日頃まで末梢血単核球からウイルス分離可能
水痘の症状
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)がまず上気道に感染し、その後ウイルスは血流に乗ってウイルス血症となります。このウイルス血症の段階を経て全身の発疹・倦怠感・発熱等の症状が出現していわゆる発症するのは通常は感染後2週間前後(10〜21日)を経てからです。水痘の症状には次のような特徴があります。
潜伏期は2-3週間程度(10 - 21日)。免疫不全患者(HIV感染者・抗がん剤治療患者など)ではより長くなることがあります。
臨床経過は一般的に軽症です。倦怠感・掻痒感・38度前後の発熱が2〜3日間続く程度であることがほとんどですが、全く発熱しない場合や、突然高熱が出ることもあり様々です。初感染からの回復後は終生免疫を得ます。その後に野生株に暴露された場合、臨床症状を起こすことなく抗体価の上昇を認めます。
水痘は通常呼吸器症状や胃腸症状を伴うことはありません。
水痘の皮膚症状(発疹・水疱)は診断的根拠になります。次のような特徴があります。
(1)発生部位
- 頭皮⇒体幹⇒四肢⇒顔面の順に拡散
- 体幹部の発疹数が最多
- 全身性発疹
豆ちしき
発疹は鼻咽頭・気道・膣などの粘膜にも出現することもあります。
(2)外 観
丘疹(盛り上がった紅い発疹)→水疱(水ぶくれ)→膿疱(水ぶくれに膿貯留)→痂皮(かさぶた)
- 全身に直径3 - 5mm程度の小紅斑・丘疹
- 中心部に小水疱が形成
- 発疹はランダムに数日かけて続々と出現
- 様々な段階の発疹が全身に混在
- 発病から3日目ごろがピーク 7日程度で痂皮になって治癒
数日にわたって新しい発疹が次々と出現するので、急性期には紅斑・丘疹・水疱・痂皮の各々の段階の発疹が混在することも水痘の特徴です。
(3)症 状
発疹は通常かゆみ(そう痒感)を伴います。特に体が温かまるとかゆみが増すため暖房や厚着をする際には気をつける必要があります。
(4)治癒期間
皮疹は次第にびらんとなり、痂皮を形成して2〜3週間で治ります。これらの全てが痂皮になったときに治癒したと認めされます。
天然痘(痘瘡・疱瘡)では発疹の段階が全て揃っており水痘との鑑別に重要でした。ワクチンの開発により天然痘は1980年5月に撲滅宣言されました。
|水痘の合併症
健常な子供が水痘を発症した場合ほとんどは数日間で治癒して行きます。しかし合併症としては皮膚病変部の二次的な細菌感染が最も多く見られます。その他に稀に脱水・肺炎・中枢神経合併症などのような疾患があります。
水痘の合併症
- 中枢神経系(髄膜脳炎・脳炎・小脳失調)(小脳炎最多・予後良好)
- 肺 炎
- 肝 炎
- 脱水症
中枢神経合併症
中枢神経合併症としては無菌性髄膜炎から脳炎まで種々起こりえます。脳炎では小脳炎が多く、小脳失調をきたすことがあるが予後は良好です。広範な脳炎の発症は稀で、約0.027%の発症率ですが成人に多く見られます。
肺 炎
水痘に合併する肺炎は通常ウイルス性です。細菌性のこともあります。
|水痘の合併症が重症化するケース
成人や妊婦が水痘を発症した場合はこれらの合併症が起こる確率は小児よりも高くなります。また有効な抗ウイルス薬が開発され予後は改善したものの、現在においても白血病や抗癌剤投与・免疫抑制剤投与・臓器移植後等で免疫抑制状態にある方が水痘を発症した場合重症化して生命に関わることもあります。また新生児が水痘を発症した場合も重症化します。
成人 ・ 妊婦 ・ 新生児 ・ アトピー性皮膚炎 ・ 免疫抑制状態
(1)成 人
子供は通常発疹が初発症状ですが、成人の水痘感染者は発疹出現以前に1〜2日の発熱と全身倦怠感を伴うことがあります。また成人患者では間質性肺炎の合併が見られることがあり皮疹も概して重症です。
(2)妊 婦
妊婦が妊娠初期(8 - 20週目)に感染すると2%程度の胎児に先天性水痘症候群として次のような症状が現れます。
低体重出生・四肢形成不全・皮膚瘢痕・部分的筋肉萎縮・脳炎・小頭症・白内障
(3)新生児
新生児や妊婦などは免疫系の働きが変化し不安定です。
(4)アトピー性皮膚炎患者
アトピー性皮膚炎患者では、本来の皮膚のバリアー機能が低下しているため皮疹が重症化します。
別タイプのヘルパスウイルス皮膚感染症・カポジ水痘様発疹症と鑑別が必要となります
(5)免疫抑制状態
次のように治療などにより免疫機能が抑制・低下している場合の水痘では重症化しやくすく、生命の危険を伴うことがあるので十分な注意が必要です。
- ステロイド療法
- 悪性腫瘍に対して化学療法
- 免疫抑制剤
- AIDS(HIV)患者など免疫不全患者
(6)ライ症候群 アスピリン服用による急性薬剤性脳症
急性期にアスピリンを服用した小児では、ライ症候群が起こることがある。
豆ちしき
アスピリン服用による急性薬剤性脳症のライ症候群は、インフルエンザ感染時にも認められます。
年令による合併症の危険性
健康な小児では水痘感染時に合併症はあまり見られません。しかし合併症の発症は年齢により異なります。年令に比例し合併症による死亡率は上昇します。
15歳以上・1歳以下は高率に合併
1〜14歳 死亡率は10万あたり約1例
15〜19歳 死亡率は10万あたり約2.7例
30〜49歳 死亡率は10万あたり約25.2例
院長のひとりごと
小児期の水痘への予防がいかに必要かが分かりますね。
|帯状疱疹について
水痘を発症し治癒後でも、水痘帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus VZV)は終生その患者様の知覚神経節に潜伏感染し続けます。いわば<冬眠>の状態です。このウイルスが潜伏感染している患者様が、数年〜数十年を経て宿主である患者様の免疫力が低下した時に、その潜伏先の神経節で再度勢いを取り戻し、神経痛と共に皮膚に水疱を形成する病態が帯状疱疹です。
<免疫力低下の原因>
- 肉体的疲労
- 精神的ストレス
- 体力の低下
- 気候(特に夏の暑さ)
- 他の疾患の合併(糖尿病・悪性腫瘍・免疫不全など)
帯状疱疹の症状
帯状疱疹の症状には次のようなものがあります。
- 潜伏感染している神経節から神経束を傷害しながら前駆痛を伴いながら下行
- 片側性の皮膚分節知覚帯(デルマトーム)に疼痛を伴う水疱
- 回復後も遷延する痛み(帯状疱疹後神経痛(PHN))
水痘帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus VZV)は脊髄の傍にある神経節に潜伏感染します。この神経節から末梢に伸びる神経は守備範囲が決まっています。その神経が支配する限られたエリアにウイルスがいたずらし、痛みを伴う水疱を形成します。それはいわば<線を引いたような明確に限られた区画>です。
年代別の帯状疱疹の発症率
年令・年代別に見た帯状疱疹の発症率は次のような傾向があります。
- 50代から上昇
- 70代 発症率が最も高く
- 80歳になるまでに3人に1人が帯状疱疹を経験
|水痘と美容的問題
水痘は美容的に問題を残す場合があります。水疱を壊したり、かさぶたを無理にとったり、化膿させると傷の深さにより皮膚がうまく再生されずに跡が残る場合があります。また水疱のサイズが大きいと大きな瘢痕がそのままの大きさで一生残るケースもあります。水痘のあとを美容外科で修正するのは、傷跡が主観的な要素が大きいため難しい場合もあります。治療法としては、再度メス等で傷跡の上を削り皮膚を湿潤療法により自然に再形成させる方法(保険外)などで、1〜2か月で治癒します。
水痘の瘢痕が残らないようしたい場合は、発病初期に皮膚科を受診して医師からその注意を受けることが重要です。ただし水疱は伝染病であるため外来で訪れる場合は他の患者の迷惑にならないよう予め受診の方法などを必ず相談しましょう。
院長のひとりごと
つまり水痘の瘢痕を残したくないのであれば、水痘にかからなければいいわけですね。つまり予防のためのワクチンの注射が美容的観点からも結局は安くて有効といえますね。
水痘の検査と診断
水痘の典型例では通常は臨床的に診断がなされ、多くの場合その皮膚症状から容易に診断できます。更なる精査や確認を要する場合検査室診断を行います。典型的でない水痘と他の病気との鑑別診断を要する場合や、早期に確定診断を得る必要がある場合などに用いられます。一般的に水痘の検査・診断方法には次のようなものがあります。
臨床診断・ウイルス分離・血清学的検査(ウイルス抗体検出)・遺伝子検査・皮内テスト
カタル症状・皮膚症状(発疹・水疱など)など一連の臨床症状や経過により水痘と診断できます。
患者様からのウイルス分離が最も直接的な方法です。通常水疱内容から行われます。水疱の底にある細胞を採取して蛍光抗体法を用いて水痘帯状疱疹ウイルス抗原を検出します。鼻咽頭・気道からの分離は困難です。
水疱擦過物の塗沫(Tzanck smear)染色標本で多核巨細胞を証明すれば診断に有用ですがあるが、単純ヘルペスとの鑑別はでききません。
水痘帯状疱疹ウイルスはモノクローナル抗体を用いた蛍光抗体法により血清学的に診断が可能です。この抗体検査により水痘帯状疱疹ウイルスの初感染であることが確認できます。
抗体検査による水痘の診断方法
- 急性期にIgM抗体を検出
- 急性期と回復期でIgG抗体の有意な上昇を確認(ペア血清)
同一患者から採取された1組の急性期血清および回復期血清のことです。感染初期の血清を急性期血清とし、病気が回復した後の血清を回復期血清とし、その抗体価の上昇を指標として血清学的診断を行います。感染症の診断、ワクチンの効果の判定に使用されます。
血清学的検査の方法
gpELISA法が有用であるが日本では研究レベルで開発が始まったばかりであり、IAHA法、ELISA法が通常用いられています。
近年ではPCR法により水痘帯状疱疹ウイルスのDNAの検出が可能であり診断に役立っています。
ウイルスの遺伝子(RNA)を検出し、それを逆転写酵素(Reverse Transcriptase)によりc-DNAを作製します。c-DNA を Polymerase Chain Reactionにより大量に増幅し、それを検出することにより確定診断します。
水痘帯状疱疹ウイルスに対する細胞性免疫能を評価するには水痘皮内抗原を用いた皮内テストを施行します。
皮内テストの診断基準
0.1mlを皮内注射し、24時間〜48時間後に発赤最大径が5mm以上の場合にウイルスに対する細胞性免疫が陽性であると判定されます。迅速な診断が要求された場合に有効な方法です。
豆ちしき
皮内テストは保険適応外です。皮内テスト液は市販されています。
水痘の治療
水痘にかかった場合、早期の治療で症状が軽減されます。水痘が疑われたらすぐにでも医療機関を受診しましょう。水痘の治療法には一般的に次のような方法があります。成人になってから初感染すると脳炎や肺炎の合併が多く危険な場合があり早期治療が重要である。
対症療法 ・ 抗ウイルス剤の投与
治療法の選択は状況により異なります。
- 乳幼児(軽症例) 対症療法(解熱剤・かゆみ止め・抗生剤軟膏)
- 年長児・成人(重症例) 抗ウイルス剤投与
- 免疫力低下症例(悪性腫瘍・他の基礎疾患) 入院後に抗ウイルス剤の点滴による経静脈的投与
水痘に対する抗ウイルス剤(アシクロビル)の効果については、その有用性を検討した多数の報告があり十分な根拠はあります。しかし免疫抑制状態の患者様に投与すると致死的になることがあるので入院を考慮する必要があります。
水痘の症状に合わせて次のような治療を行います。軽症例では対症療法だけで十分治癒してゆきます。
- 発 熱 非ステロイド性解熱鎮痛薬
- 掻痒感(かゆみ) 抗ヒスタミン薬・フェノール亜鉛華リニメント
- 皮膚症状(水疱(水ぶくれ)・痂疲(かさぶた)) 抗生剤外用薬(軟膏・クリーム) 二次感染防止
通常、石炭酸亜鉛化リニメント(カルボルチンクリニメント;カチリ)などの外用が行われる。二次感染をおこした場合には抗生物質の外用、全身投与が行われる。抗ウイルス剤としてアシクロビル(ACV)があり、重症水痘、および水痘の重症化が容易に予測される免疫不全者などでは第一選択薬剤となる。この場合、15mg/kg/日を1日3回に分けて静脈内投与するのが原則である。一方、免疫機能が正常と考えられる者の水痘についても、ACVの経口投与は症状を軽症化させるのに有効であると考えられており、その場合、発症48時間以内に50〜80mg/kg/日を4〜5日間投与するのが適当であるとされている。しかし、全ての水痘患者に対してルーチンに投与する必要はないと思われる。
発熱している場合はアスピリンの使用は避けましょう。市販の解熱剤にアスピリンが含まれる場合もあり服用した際には必ず医師に伝えてください。
皮膚症状は化膿がなければドレッシング材などで覆うことにより湿潤環境を維持することで跡が残りにくくなる場合があるので医師に相談してみましょう。
水痘帯状疱疹ウイルスに対しての抗ウイルス薬を水痘発症後速やかに投与することによって、症状の軽減が期待できます。
- 出現する水疱の数を減少
- 水疱の存在持続期間を短縮
- かゆみ(そう痒感)のレベルを軽減
- 掻痒感の持続期間を短縮
- 発熱のレベルを抑制
- カタル症状の期間短縮
水痘に対しての抗ウイルス薬 内服・点滴・静脈注射
- アシクロビル(ゾビラックス)
- バラサイクロビル(バルトレックス)
- ビダラビン(アラセナA)
- ファムシクロビル(ファムビル)
豆ちしき
妊婦の患者様に対しての抗ウイルス薬はありません。いかに予防が大事かが分かりますね。
水痘の予防
水痘を予防するには一般的に次のような方法があります。
水痘患者との接触防止・水痘ワクチン接種
|水痘患者との接触防止
水痘は基本的に <人と人との接触による感染> で拡大してゆきます。最大の予防は感染源の患者との接触をさけることです。
水痘が流行している施設や家族内では可能な限り感染者を隔離しましょう。
|水痘ワクチンとは?
水痘の予防には、水痘帯状疱疹ワクチン接種が予防の第一選択です。1987年より任意接種のワクチンとして小児に接種されてきました。2014年10月1日から定期接種(A類疾病)となりました。
水痘ワクチンの特徴
- 弱毒化生ワクチン
- 1回の接種で抗体獲得率 約92%
- 接種により約90%程度の発症阻止効果あり
- 重症副作用はほとんどなし
水痘ワクチンでは弱毒化生ワクチンが日本・韓国・アメリカなどで認可されています。アメリカを含むアメリカ大陸各国・ヨーロッパ各国・中国・韓国では既に小児へ水痘ワクチンを定期接種しております。アメリカでは、1歳以上で水痘の既往のない全ての小児に対してワクチン接種が推奨されています。
豆ちしき
水痘ワクチンは世界にさきがけて日本で開発された生ワクチンです。
水痘ワクチンは、麻疹・風疹などのワクチンと異なり、ワクチン接種によって抗体が獲得されても、水痘ウイルスに暴露した時に発症することが10〜20%程度ありうる。
ただし、この場合の水痘は極めて軽症で発疹の数も少なく、非典型的であることが殆どである。
|水痘ワクチン定期接種の対象者とスケジュール
水痘ワクチンは日本でも2014年10月1日から定期接種となりました。
定期接種の対象者とスケジュール
- 生後12〜36ヶ月の小児(1歳から3歳の誕生日の前日まで)
- 1回目(1歳0ヶ月 - 1歳3ヶ月) ・ 2回目(1回目終了から6 - 12か月の間隔を空けて)
- 生後36〜60ヶ月の小児(3歳から5歳の誕生日の前日まで 特例措置の対象者)
既に水痘に罹患したことがある場合は抗体がありますので接種対象にはなりません。任意接種として過去に水痘ワクチンの接種を受けたことがある場合は、既に接種した回数分の接種を受けたものとみなされます。
<接種時期と接種回数>
1歳から接種できます。1回目の接種後約3か月以上経過したら(標準的には6〜12か月後)2回目を接種することが推奨されています。2回目の接種が、更なる免疫力をつける(Booster 効果)ために必要です。世界的にも2回接種が水痘ワクチンの標準的な接種方法です。1歳になったらMR(麻しん風しん混合)ワクチンの次にできるだけ早く受けましょう。
- 1回接種で水痘の重症化はほぼ100% 防止可能
- 1回接種者の6〜12% が再感染
- 2回接種した場合の防止効果 99% 以上
2015年5月には定期接種化により小児の入院例が過去10年で最少であったことが報告されています。接種後に水痘に罹患することを、ブレークスルー水痘(Breakthrough Chicken Pox)と呼びます。ほとんどが軽症ですぐに治癒します。ワクチンを接種していると、多くの場合、接種しないで自然感染するよりも軽くすみ、水疱のあとも残りにくくなります。
|水痘の更なる予防・治療
水痘の更なる予防・治療には水痘ウイルスと抗ウイルス剤のコンビネーションが奏功します。
水痘患者と接触後のワクチン接種
水痘患者と接触後でも、72時間以内に可及的速やかにワクチンを緊急接種することで発症の予防または症状の軽減が期待できます。
水痘患者と接触後の抗ウイルス剤投与
水痘患者と接触後、予防的にアシクロビルを投与することがある。接触の7 - 9日後に内服を開始し、7日間継続する。
対象患者 重症化が予想される対象者に抗ウイルス剤投与
- 水痘患者に接触した乳児
- 免疫不全患者(悪性腫瘍・化学療法施行中・免疫抑制剤使用中など)
家族内での発症予防に関し、発症予想日の7日前からアシクロビル(ACV)を予防内服(40mg/kg/日 7日間)することで水痘の症状を抑えかつ免疫反応を獲得するとの報告もあります。
免疫抑制状態の患者への水痘ワクチンの接種
水痘ワクチンは白血病などの免疫抑制状態となっている患者様が水痘を感染発症した場合に、重篤化もしくは致死的になることを防ぐ目的で開発されました。一定の基準を満たせば免疫抑制状態に患者様でも接種は可能であり、ワクチン接種による重篤な副反応は、他の生ワクチンと比較しても非常に少ないです。
|水痘ワクチンの副作用
水痘ワクチンでは重症な副作用の報告はほとんどありません。軽度の副作用の症状としては次のようなものがあります。
1.重症副反応(発症頻度は低い・全身性の副反応は稀)
アナフィラキシー様症状・急性血小板減少性紫斑病
2.軽症副作用(一定の頻度で出現)
過 敏 症 接種直後から翌日に発疹・蕁麻疹・紅斑・そう痒(かゆみ)・発熱など
全身症状 発熱・発疹(一過性で通常数日中に消失)
水痘様発疹の出現(4〜6%)(発疹は5個程度・ほとんど斑丘疹)
局所症状 ワクチン接種部位の軽度発赤・腫脹・硬結(小児19% 成人24%の発症率)
水痘ワクチンとゼラチンアレルギー
従来水痘ワクチン接種の際にゼラチンアレルギーの小児などでは注意が必要でした。現在全ての生ワクチンからゼラチンが除去されるか、あるいはアレルギー反応を起こしにくい低分子ゼラチンの使用に変更されています。この措置により水痘ワクチンからもゼラチンが除去され、現在日本で流通している水痘ワクチンはゼラチンを含まない製剤です。
ただし、予想発症日から約2カ月後にVZV抗体の有無を確認しておく必要があり、獲得が見られなければ、その時点で水痘ワクチンを接種しておくことが望まれる。
|水痘の感染症法における取り扱い
水痘は、感染症法による5類感染症定点把握疾患(第5類感染症)に定められています。全国約3,000カ所の小児科定点より毎週報告がなされています。報告のための基準は次の通りです。
<診断した医師の判断により症状や所見から当該疾患が疑われ<かつ>以下の2つの基準を満たす疾患>
(1)全身性の丘疹性水疱疹の突然の出現
(2)新旧種々の段階の発疹(丘疹・水疱・痂皮)が同時に混在すること
(3)(1)(2)の基準は満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑
われ <かつ> 病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断された疾患
|水痘の学校保健法での取り扱い
水痘は、学校保健法により第2種の伝染病定められています。水痘にかかった児童の登校基準は次の通りです。
- すべての発疹が痂皮化するまで出席停止
- ただし病状により医師が伝染の可能性がないと認めた時はこの限りではない
|水痘ワクチンの科学的分析 アメリカでの接種成績
2001年3月アメリカで水痘ワクチン発売後約6年を経過した時点での接種成績が科学論文(New England Journal of Medicine)として発表されました。その論旨は次のとおりです。
- 水痘ワクチン接種は子供達の水痘を85%予防し、中等度から重症の水痘に関しては97%予防することが可能であった
- 接種後罹患した患者は、ワクチン接種6週間後の水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)に対する抗体価が低かった
水痘ワクチン<Oka>親株(野生株)とワクチン株との違い
ワクチン株は野生株よりも皮膚における増殖が遅く、ウイルス血症が起こる前に免疫ができあがります。更にT細胞への感染性が減弱しているといわれています。
水痘の疫学
水痘ウイルスの自然宿主はヒトのみであるが、世界中に分布しています。水痘の疫学的特徴には次のとおりです。
- 毎年12 - 7月に多い 8 - 11月には減少
- 多くは9歳以下の小児が感染
- 伝染力 麻疹>水痘>ムンプス(おたふく)・風疹
- 家庭内接触での発症率 90%以上
- 発疹出現1〜2日前から出現後4〜5日まで 水疱が痂皮化するまで伝染力あり
水痘に1度かかると2度とかからないと一般に言われています。しかし抗体が減少すれば再発症する可能性はあります
|水痘・帯状疱疹の今後
日本では2014年10月から水痘ワクチンが定期接種化され小児に接種可能となりました。これにより年間数十万人発生する水痘の感染者数は大きく減少し、それに伴って入院患者数や重症者数も減少すると予想されます。これらは必ずしも良いとは限りません。以下のような現象が起こる可能性があります。
水痘と帯状疱疹の関係
治癒後も神経節などに水痘・帯状疱疹ウイルスは潜伏しており、免疫低下時や疲労・ストレス時に再活性化し帯状疱疹を発症することがあります。
水痘患者数減少⇒ウイルス感染する機会減少⇒水痘に対する免疫が増強⇒高齢者の帯状疱疹発症率増加
日本の成人の大半は過去に水痘に罹患した経験があります。高年齢となるにつれて多くの患者様が帯状疱疹を発症すると予想されます。最近では高齢者に対する帯状疱疹の予防として、水痘ワクチンを接種する試みが海外・国内でも始まっており今後の結果が期待されます。一時的に帯状疱疹の発症者数は増加するかもしれませんが、現在の水痘ワクチンの定期接種は将来大きく帯状疱疹の発症者を減少させるために重要です。
豆ちしき
アメリカでは高齢者(60歳以上)を対象とした水痘ワクチンの接種が既に行われています
病気に気づいたらどうする
発熱と共に次々発生する水疱を自覚したら医療機関(皮膚科・小児科など)を受診します。医療機関では診断を確定するとともに、抗ウイルス薬による治療を行うかどうか決定します。年長児・成人・水痘の重症化につながる基礎疾患がある場合は早期に治療を始める必要があります。伝染力が強いので全ての皮疹が痂疲(かさぶた)になるまで通学通勤は禁止です。家族に水痘に未感染の方は、接触後に潜伏期間内に水痘ワクチンを接種すると発症阻止が可能です。
水痘Q&A
水痘に関するよくある質問をまとめてみました。
水痘とは、いわゆる<みずぼうそう>です。水痘帯状疱疹ウイルスの感染によって起こる発疹性の病気です。空気感染・飛沫感染・接触感染により広がり潜伏期間は感染から2週間程度と言われています。発疹発現前から発熱が認められ、発疹は紅斑(皮膚の表面が赤くなること)から始まり、水疱・膿疱(粘度のある液体が含まれる水疱)を経て痂皮化(かさぶた)して治癒するとされています。一部は重症化し、日本では水痘は年間100万人程度が発症し、4,000人程度が入院、20人程度が死亡していると推定されています。
水痘は主に小児の病気で、9歳以下での発症が90%以上を占めると言われています。小児における重症化は、熱性痙攣・肺炎・気管支炎等の合併症によるものです。成人での水痘も稀に見られますが、成人に水痘が発症した場合、水痘自体が重症化するリスクが高くなります。
現在国内では乾燥弱毒生水痘ワクチンが接種されています。水痘ワクチンの1回の接種により重症の水痘はほぼ100%予防できます。2回の接種により軽症の水痘も予防できると考えられています。
2014年(平成26年)10月1日から開始されました。
水痘ワクチンの定期接種は、生後12ヶ月から生後36ヶ月の間にある患者様(1歳の誕生日の前日から3歳の誕生日の前日までの方)を対象としています。通常2回の接種を行うこととなっており、1回目の接種は標準的には生後12ヶ月から生後15ヶ月までの間に行います。2回目の接種は、1回目の接種から3ヶ月以上経過してから行いますが、標準的には1回目接種後6ヶ月から12ヶ月まで経過した時期に行うこととなっています。
また平成26年度に限り(平成26年10月1日から平成27年3月31日まで)、生後36月に至った日の翌日から生後60月に至までの間にある方(3歳の誕生日当日から5歳の誕生日の前日までの方)も定期接種の対象とすることとしています。この場合、1回(この1回には、生後36月以前に接種したワクチンも含まれます。)水痘ワクチンを接種することとしております。またこれまで任意で接種された回数も考慮して接種回数が決まります。また、水痘を発症したことがある方はすでに免疫を持っているので、接種する必要はありません。
今回、生後12ヶ月から生後36ヶ月の間にある方への水痘の定期の予防接種を導入した場合、社会的に水痘の流行が減少することが期待されます。これにより水痘への自然暴露の機会が減少します。罹患歴がなく、かつ、ワクチンを接種していない方については、免疫を持たないまま成人へと成長するおそれがあります。成人は水痘の重症化リスクが比較的高いとされているため、このようなことは望ましくありません。
今回の特例措置は、罹患歴及び接種歴のない生後36ヶ月から生後60ヶ月に至るまでの間にある方(概ね3歳、4歳の方)について、このようなリスクを減らすために実施するものです。水痘ワクチンは1回の接種により重症の水痘はほぼ100%予防できると考えられるため、特例措置の対象者については、1回の接種をすることとしています。
既に任意接種として接種した水痘ワクチンについては、定期接種を受けたものとみなしてそれ以降の定期接種を受けていただくこととなります。
生後12月以降に3月以上の間隔をおいて2回接種を行っている方
すでに定期接種は終了しているものとみなされ、定期接種の対象とはなりません。
生後12月以降に1回の接種を行っている方
1回の定期接種を行っているものとみなされます。生後12月から生後36月に至るまでの間にある(1歳の誕生日の前日から3歳の誕生日の前日まで)場合は、過去の接種から3月以上の間隔をおいて一回の接種を行います。生後36月に至った日の翌日から生後60月に至までの間にある(3歳の誕生日から5歳の誕生日の前日まで)場合は、定期接種を終了しているものとみなされ、定期接種の対象とはなりません。
生後12月以降に2回接種を行っているが、その間隔が3月未満である方
1回の定期接種を行っているものとみなされます(3月以上の間隔をおいていないため、2回の定期接種を行っているものとはみなされません。)。生後12月から生後36月に至るまでの間にある(1歳の誕生日の前日から3歳の誕生日の前日まで)場合は、過去の1回目の接種から3月以上(2回目の接種から27日以上)の間隔をおいて1回の接種を行います。生後36月に至った日の翌日から生後60月に至までの間にある(3歳の誕生日から5歳の誕生日の前日まで)場合は、定期接種を終了しているものとみなされ、定期接種の対象とはなりません。
水痘にかかったことのある方は、水痘に対する免疫を獲得していると考えられ、基本的には水痘の定期接種の対象外となります。
接種対象年齢において、長期に渡り療養を必要とする病気にかかっていたために、定期接種を受けることができなかったと認められた場合、長期療養特例として定期接種を受けることができます(この場合、接種可能となった日から2年以内に接種を受ける必要があります。)。特例に該当するか否かについては、医学的な判断が必要です。詳細についてはお住まいの市町村にお問い合わせください。
稀に報告される重い副反応としては、アナフィラキシー様症状、急性血小板減少性紫斑病などがあります。一定の頻度で見られるとして報告されている副反応については下記のとおりです。
過敏症 接種直後から翌日に発疹・蕁麻疹・紅斑・そう痒(かゆみ)・発熱等
全身症状 発熱・発疹(一過性で通常数日中に消失)
局所症状 発赤・腫脹・硬結など
水痘ワクチンの必要な回数以上の接種については、医学的知見が充実しているとは言えませんが、現時点では、特別な健康被害が発生するというような報告はありません。
ただし、通常のワクチン接種による副反応と同等のリスクはあると考えられます。
田島クリニック
TEL 045(264)8332
www.tajimaclinic.yokohama
1F Etoile Yamashita, 118-1 Yamashita -Cho, Naka-ku, Yokohama, 231-0023
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